pediatrics小児科
起立性調節障害
どんな病気ですか?
起立性調節障害(以下OD)は自律神経系がうまく働かず、起立時に脳や身体の血流が減少することにより、「朝起きられない」、「立ちくらみやめまい」、「頭痛」などの様々な症状が現れる病気です。
一般的に思春期は様々な身体機能の変化があり、またストレスをかかえることも多いため自律神経系の働きが悪くなりやすいとされています。自律神経系は、身体の活動性を高める「交感神経」と休息をもたらす「副交感神経」からなり、自律神経のバランスがくずれると、朝からだが思うように動かず、夜は寝つけないといった症状が出ます。
「朝起きられない」という症状は小学校高学年では4~5割、中学生では5~6割にみられます。それ以外の症状も含めると、ODと考えられる人は中学生の1~2割程度にみられる頻度の高い病気です。
症状が強い場合には、学校を休みがちになってしまうこともあり、周囲に「怠けている」などと思われてしまうことも多く、このことが更にストレスとなり症状を悪化させてしまいます。
どんな症状がでるの?
小児心身医学会のガイドラインではODの身体症状を以下のようにあげています。
- 立ちくらみ、あるいはめまいを起こしすい
- 立っていると気持ちが悪くなる、ひどいと倒れる
- 入浴時あるいは嫌なことを見聞きすると気持ちが悪くなる
- 少し動くと動悸あるいは息切れがする
- 朝なかなか起きられず午前中調子が悪い
- 顔色が青白い
- 食欲不振
- 臍仙痛(さいせんつう)をときどき訴える(前触れ無く突然おへその周囲が痛む)
- 倦怠あるいは疲れやすい
- 頭痛
- 乗り物に酔いやすい
これらのうち3項目以上が当てはまる場合、ODの可能性が考えられます。
ODの可能性が考えられる場合、より適切な治療を行うためのタイプ分けと、重症度の判定のために「新起立試験」を行います。
新起立試験では、約10分間安静に横になった状態から起立し、血圧や心拍数の変化を測定します。
どんな治療をするのですか?
ODの治療は、本人や周囲が病気をしっかり理解することから始まります。 朝起きられないのは怠けているわけではなく病気であることを理解します。そのうえで、まずは日常生活で改善できることを検討します。
具体的には以下のようなことに気をつけましょう。
- 起立時は急に立ち上がらず、ゆっくり30秒ほどかけて起き上がります。
- 起きた後にまた横になるとそのまま眠ってしまい、生活・睡眠のリズムが乱れます。
つらい場合はソファなどに腰掛けたりして頭を下げた状態にするとよいでしょう。 - 水分、塩分をしっかり摂取しましょう。塩分は通常より多めの1日10~12gを目安にとるようにします。
- 体調のよい夕方などに、散歩など軽い運動を行うとよいでしょう。
- その他、弾性ストッキングなどを着用し、下半身への血液の貯留を防止する方法もあります。
これらの方法で改善しない場合や、比較的程度の強い症状の場合には薬物療法が行われます。
薬物療法としては、主に血圧を上げる薬を使用します。
症状が強い場合は学校に通いにくいお子さんもいるので、学校の先生と連携をとるなどして学校生活上の配慮をしてもらうこともあります。
また、ODはこころの不調と関連していることも多いので、そのような場合は児童精神科や心療内科と連携をとることもあります。
いつ治る?
『小児起立性調節障害診断・治療ガイドライン』によると、軽症例では数か月以内に改善することもありますが、日常生活に支障のある中等症では、1年後の回復率は約50%、2~3年後は70~80%であり、不登校を伴う重症例では1年後の復学率は30%で、短期間での復学は困難とされています。しかし、体力に見合った高校に進学した場合は高校2~3年生になると90%程度は治ると考えられています。すぐに治るのは難しい場合も多いですが、焦らずに、ある程度長い目で見て付き合っていく必要があります。
最後に
ODのお子さんは、自分自身でも症状に対して不安やイライラを抱えていることがあり、また、ご家族もお子さんに対して「怠けている」とお子さんを責めたりすることもありますし、逆に「環境や育て方がわるかったのではないか?」とご自身を責めたりしていることがあります。 お子さん自身も親御さん自身も責められることは全くありません、ODを病気として理解し、焦らず、無理をせず治療をしていくことが必要です。
2025年4月11日
小児科 髙嶋 能文
日本小児科学会小児科専門医
日本血液学会血液専門医