columnコラム
糖尿病内科コラム
血糖値に対する運動の効果について
血糖値に関係する生活習慣として、前回は食事の影響について述べました。今回は、血糖値に対する、運動の影響についてお話いたします。

どんな運動がいいの?
インスリンの効果を高めて血糖値を下げる運動には、有酸素運動と、レジスタンス運動があります。
有酸素運動(ウォーキングなど)を行うと、筋肉の血流が増え、ブドウ糖がどんどん細胞の中に取り込まれ、血糖値は低下します。一般的に、中等度の強度(ややきついと感じるくらい)の有酸素運動が勧められています。
また、レジスタンス運動(筋力トレーニングなど)によって筋肉が増えることでも、インスリンの効果が高まり、血糖値は下がりやすくなります。最近の研究では、有酸素運動と筋力トレーニングを組み合わせることによって、より良い治療効果が生まれることが明らかとなっています。ただし、運動の効果は数日程度しか持続しません。
一方で、強度の高い激しい運動は、体が動くためのエネルギーを補充しようとして、アドレナリンなどのカテコラミンやグルカゴンという血糖値を上げるホルモンの分泌を増やし、一時的に血糖値が高くなることがあります。また、血圧が上がりすぎてしまう高強度の筋力トレーニングは、心臓や腎臓に負担がかかり、かえって害になります。たくさん運動をすればよいというわけではないことに注意が必要です。
いつ運動するのがいいの?
食後に運動すると、血液中の糖分がエネルギーとして使われるため、血糖値の上昇を抑えることができます。食後の時間帯でなくても、継続して運動することで内臓や筋肉の脂肪が減ることでインスリンの働きを高め血糖値を抑えることができます。
1日の中での運動のタイミングと血糖値の関係について、午後の運動の方が午前中の運動よりも血糖値を低下させるとの研究があります。一方で、朝の運動の方が昼の運動よりも減量効果が高かったという報告もあります。個人の代謝や体内時計の差が関係している可能性があり、推奨されているタイミングはありません。まずは、ご自分のやりやすいタイミングで、やりやすい運動から始めてみるのがよいでしょう。
身体活動量を増やす工夫は?
30分間のウォーキングなどの「運動」をしていたとしても、実は1日に消費するエネルギーのうち10%程度でしかありません。日常生活の活動量を非運動性熱産生 (non-exercise-activity thermogenesis; NEAT ニート)といい、1日の活動量の25-30%を占めます。このNEATを意識的に増やしていくことが重要です。
通勤方法をマイカーから公共交通機関や自転車に切り替える、少し遠くの駐車場にとめて歩行量を増やす、などもよいでしょう。家事も積極的に行うことで糖尿病の発症が抑えられることがわかっています。台所仕事や掃除などはウォーキングと同じくらいのエネルギーを消費します。仕事中、座っている時間が長いと心臓疾患などの発症率が高いことが知られています。30分に1度5分程度立つ、あるいは軽く歩行すると血糖値は低下します。
また、運動の合計時間が同じであった時、続けて運動するよりも小分けに運動した方が血糖値の上昇が抑えられたことがわかっています。運動する!と気負わずにすき間時間に少しずつでも運動できればいいですね。
今まで習慣がなかったのに、激しい運動を急に始めると、思わぬからだの不調が生じます。ストレッチや準備体操を十分に行い、最初は軽い運動から、少しずつ強度をあげていきましょう。また、睡眠不足はストレスホルモンを産生し、インスリンの働きを抑えてしまいます。十分な睡眠・休養をとることも重要です。
2025年4月15日
糖尿病・代謝内科 大屋 純子
日本糖尿病学会糖尿病専門医・指導医
日本病態栄養学会病態栄養専門医
日本日本内科学会総合内科専門医